窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

立秋

「今日は立秋というけれど、暑いですね。」と、朝から何度もラジオで言っている。それでも、陽の傾き具合が少しずつ変わって来ていて、軒下の苦瓜の日よけの効果もあがっている。
高校野球が始まった。早実が出て町が地元以外の人でえらい騒ぎになったのも、なんだかもうずいぶん前のような気がする。

朝、窓を開けたら母猫のアーニャと3匹の子猫が輪になって座って何かを見つめていた。その何かは縁側の下の辺りにあるらしく、アーニャは前足を伸ばして引っ掻いて手元に寄せようとしている。子猫たちは皆でアーニャのその前足の先をじっと見ている。
それがいったいなんなのか・・・・。私は網戸を開けて首をのばしてみた。しかし、度のあわなくなった私のメガネではよく見えない。なにやら茶色くて細長い。
ム・ムカデ?
そういえば、去年の夏に初めて大ムカデが出て、10年くらい前にムカデ在住の地に家を建ててしまって、未だにムカデと格闘している丹羽君に対策をご教授いただいたのを思い出す。対策は殆どないのだったが。
まあ、とりあえずと。
縁側に出ると子猫たちはクモの子を散らすように逃げ、あとにはアーニャとその物体が残るのみだった。

物体は串に刺した焼き鳥の残骸だった。またアーニャが何処かでもらって持って来たのだ。
それはもう殆ど食べてあったけれど、まだヒトカケの半分くらいが、干物のようになって串にくっついていた。
私はつまんでゴミ袋に入れた。アーニャは私の顔を少しの間見上げていたが、子猫の逃げ込んだ木陰に、トボトボと入っていった。